バレーボール: コート上の人口過密事件!?バレーボールが「何人でもOK」から「6人」になるまでの泥臭い裏話

バレーボール

バレーボールといえば、6人の選手が完璧なコンビネーションで魅せる究極の組織スポーツ。……ですが、時計の針を130年ほど巻き戻すと、そこには『コートに40人以上がすし詰めになり、汗ひとつかかずに風船のようなボールをポチポチ触り合うおじさんたち』の姿がありました。そう、バレーボールは最初、人数制限なんて存在しない『超アバウトなレクリエーション』として始まったのです。

1. コートは満員電車状態!?当時のカオスな光景

1895年、アメリカのYMCAでウィリアム・G・モルガンが作った最初のルールブックには、人数についてこう書かれていました。

「プレーヤーの人数は、コートの広さに応じて、また両チームの合意によって、何人であってもよい(Any number of players…)」

つまり、極端に言えば「体育館に来た人は全員コートに入ってよし!」というルールです。

実際、当時は1チーム15人vs15人や、多いときには20人以上vs20人以上で1つのボールを追いかけることも珍しくありませんでした。テニスコートほどの広さに40人以上がひしめき合っているわけですから、コート内はまさに満員電車状態。

しかも、当時はまだ「3回以内で返球する」というルールもありませんでした。

味方が何回触ってもよかったため、「20人でポンポンと何十回もパスを回し合ってから、ようやく相手コートに返す」という、今で言う「風船バレー」のような、まったりとした光景が繰り広げられていたのです。

2. なぜ「人数フリー」にしたのか?(考案者の優しい理由)

なぜモルガンは、こんなアバウトなルールにしたのでしょうか? そこには、彼がバレーボールを作った「優しすぎる目的」がありました。

① 「あぶれる人」を出したくなかった

当時、同じ体育館では誕生したばかりの「バスケットボール」が大流行していました。しかし、バスケは1チーム5人(当時は9人制の時期もありました)と人数が決まっているため、体育館に30人集まると、あぶれた人たちは壁際で指をくわえて見ているしかありませんでした。

体育教師だったモルガンは、それが心苦しかったのです。「せっかく体を動かしに来たんだから、全員が同時に、仲間外れなしで楽しめるスポーツを作ろう!」と考えた結果が、「人数制限なし」というルールでした。

② 「運動が苦手なビジネスマン」を救うため

モルガンがバレー(当時は「ミントネット」と呼ばれていました)を体験させた最初のターゲットは、地元のせっかちな、そしてちょっと体力の衰えた中年ビジネスマンたちでした。

バスケのように激しく走り回るスポーツは、おじさんたちにはキツすぎます。そこでモルガンはこう考えました。

「コートにたくさん人がいれば、1人が動く範囲は一歩か二歩で済む。これならスーツのズボンを穿いたままでも、体力を消耗せずにワイワイ楽しめるぞ」

つまり、現代の「1秒を争う激しいスポーツ」ではなく、「おじさんたちが全く汗をかかずに談笑しながらできるレクリエーション」として生まれたからこそ、人数は多ければ多いほど都合が良かったのです。

3.黎明期の面白エピソード:「なぜ最初は9人制だったのか?」のウラ

誕生当初の「人数フリー」から、なぜアメリカや日本で一度「9人制」が定着したのか。そこには当時の時代背景や、ある「下心」が見え隠れします。

① 野球人気への「便乗」と「下心」

アメリカで9人制が定着した大きな理由は、当時すでに国民的スポーツだった「野球(1チーム9人)」でした。学校や地域の集まりで「野球のチームがそのままそっくり体育館に移動して遊べるように」と9人制にしたという、なんとも合理的な(悪く言えば大雑把な)理由でした。

 ②「テニス」と「バスケ」のいいとこ取りを狙った結果

考案者のモルガンは、テニスのように優雅で、バスケ(当時誕生したばかり)のように激しすぎないシニア向けのスポーツを目指していました。そのため、最初は「コートの中に人が多ければ多いほど、自分が動く範囲が狭くて済むから楽でいい」という、現代の激しいバレーからは想像もつかない「省エネ志向」で人数が多く設定されていたのです。

4.日本中を揺るがした「6人制導入」の大論争と猛反対

日本バレーボール界の歴史において、最もドラマチックなのが昭和30年代の「9人制から6人制への大転換期」です。

当時の日本は6人制を猛反対していました。それは、当時の日本の9人制が「レクリエーションの域を超えて、究極の芸術品として完成していたから」です。

当時の日本の9人制は、現代のバレーとは全く異なる進化を遂げていました。

  •  ネットが低い(男子2m25cm、女子2m)
  •  ローテーションがない(前衛・後衛の専門職化)
  •  サーブは2回打てる
  •  ネットに触れたボールをリバウンドさせて繋いでいい

このルールにより、日本人は「ネット際の高さ」ではなく、「神業のようなレシーブ力」と「目にも留まらぬ高速コンビネーション」でボールを絶対に落とさないスタイルを極めていました。国内では実業団を中心に凄まじい人気を誇り、選手たちも「自分たちの9人制こそが至高のバレー」という強烈なプライドを持っていたのです。

そこに突然、世界から「オリンピックに出たければ、明日からネットを高くして、人数を減らして、全員グルグル回れ(ローテーション)」と言われたわけですから、現場の反発は「野球選手に明日からクリケットをやれと言うようなもの」でした。

実録:日本バレー界を二分した「クーデター」と「ボイコット」

1964年東京オリンピックでのバレーボール正式採用が決まった1950年代後半、日本バレーボール協会(JVA)の内部は、文字通り血を見るような権力闘争に突入しました。

 ①激化する「国際派」vs「国内派」の対立

 国際派(前田豊氏ら):「世界で勝つためには今すぐ6人制に一本化すべきだ!」

 国内派(地方連盟・実業団):「日本の伝統である9人制を捨てる気か!6人制なんてやったらチビの日本人は世界に未来永劫勝てなくなる!」

 ②「6人制大会」へのボイコット事件

協会が無理やり6人制の全日本選手権を開催しようとしたところ、9人制の強豪チームや地方連盟が一斉に猛反発。「そんな大会には選手を出さない」とボイコットを画策するなど、一時は日本のバレー界が完全に空中分解する一歩手前まで追い込まれました。

この危機を救ったのが、前述の前田豊氏らが地方を泥臭くドサ回りし、「9人制も残す(無くさない)から、とにかくオリンピックのために6人制をやらせてくれ!」と頭を下げて回った妥協案でした。

5.「東洋の魔女」の誕生も、実はこの大転換の“被害者”から始まった

映画やドラマにもなった「東洋の魔女(日紡貝塚)」ですが、彼女たちを率いた大松博文監督も、実は大転換期の最大の被害者であり、最大の抵抗勢力でした。

鬼監督・大松の絶望と「意地」

日紡貝塚は9人制で「125連勝」という不滅の記録を持っていた、誰もが認める日本一のチームでした。大松監督にとって、自分たちが築き上げた9人制の帝国を捨てさせられるのは、屈辱以外の何物でもありませんでした。

実際、6人制に転向したばかりの最初の世界選手権(1960年ブラジル大会)で、日本女子はソ連(現ロシア)の圧倒的な「高さとパワー」の前に準優勝に終わります。

大男・大女が力任せにスパイクを叩き込んでくる6人制を見て、日本のバレー関係者は「ほら見たことか!6人制なんてやるからだ!」と大松監督や国際派を激しく非難しました。

しかし、ここからドラマが生まれます。

大松監督の心に火がついたのです。「高さで勝てないなら、9人制の十八番である『絶対に床にボールを落とさないレシーブ』を6人制にアジャストさせて、世界を驚かせてやる」。

そうして生まれたのが、床を転がりながらボールを拾う「回転レシーブ」でした。

これは、元々は「9人制の狭いコートで、隣の選手とぶつからずに素早く立ち上がるために開発された技術」だったのです。9人制の遺産が、6人制の世界を揺るがす強力な武器に化けた瞬間でした。

まとめ

日本にあれほど「チビの日本人が勝てるわけがない」と絶望をもたらした6人制ですが、いざ蓋を開けてみれば、1964年東京オリンピックで女子日本代表が金メダル、男子も銅メダルを獲得。日本中に空前のバレーボールブームが巻き起こりました。

そして皮肉なことに、「日本を世界一に押し上げたのは、あれほどみんなで猛反対し、嫌悪していた『6人制』だった」という結末を迎えます。

もしあの時、日本がプライドに固執して9人制に引きこもっていたら、現在の『アニメ・ハイキュー!!』のような世界的人気も、日本バレーの躍進もなかったかもしれません。変革を恐れた人々の凄まじい抵抗と、それを技術で乗り越えた現場の意地。バレーボールの『6人』という数字の裏には、そんな日本のスポーツ史を揺るがす大激動のドラマが隠されているのです」

9人制の「絶対にボールを落とさないレシーブ」が、現代の6人制バレーの超高速コンビネーションへとどう受け継がれているのか――。

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